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金沢地方裁判所 昭和25年(行)4号 判決

原告 宮本竹清

被告 石川県農地委員会

一、主  文

被告が昭和二十五年三月二十九日為した七尾市東湊地区農地委員会の別紙第一目録記載農地の買収売渡計画に対する部分の承認を取消した裁決はこれを取消す。

原告その余の請求を棄却する。

訴訟費用は三分し、その二を原告の負担とし、その一を被告の負担とする。

二、事  実

一、請求趣旨及び原因

原告訴訟代理人は、「被告が昭和二十五年三月二十九日為した七尾市東湊地区農地委員会の別紙第一乃至第三目録記載農地及び宅地の買収並に売渡計画に対する承認を取消すことの取消裁決はこれを取消す、訴訟費用は被告の負担とする」との判決を求め、

その請求原因として、下記の如く陳述した。すなわち、原告は右地区農地委員会の定めた本件各土地に対する買収売渡計画につき、別紙第一目録記載農地については昭和二十二年十月二日、第二目録の宅地については同年十二月二日、第三目録の農地については昭和二十三年二月二日夫れ夫れ被告から承認があつた結果、自作農創設特別措置法による売渡通知書を交付され、該売渡処分によつてこれら土地の所有権を取得したのであるが、右地区農地委員会は訴外宮本繁の陳情で昭和二十五年二月十日前記各買収売渡計画を取消したので、直ちに原告より訴願と題して被告にその不服を申立たところ、被告も亦同年三月二十九日さきの承認を取消すとの裁決をした。原告は同年四月十四日その取消裁決の送達をうけてこれを知つたのであるが、(1)買収売渡手続には何ら取消原因たるべき瑕疵がないのに前記の如く地区農地委員会はこれを取消し、被告も亦それに伴つて右の取消裁決をしたのは全く違法である。(2)仮りに何らかの取消原因があつたとしても、右買収売渡手続は何ら所有者の異議申立なく法定の異議申立期間を徒過し、処分に不可争力を生じたから、地区農地委員会のみならず被告と雖も最早前の処分をくつがえす取消処分を為す権限がない。(3)仮りに、右にかかわらず取消しうるとしても本件では被告の承認したときから行政事件訴訟特例法に定める処分のときより一ケ年の出訴期間以上の二年の時日を経過し、処分は実質的に確定したから被告はその取消裁決を為し得ない。(4)又仮りに右が理由なしとしても、本件について原告の前記所有権を侵害しても尚これを正当化する公益上の必要がないし、又その取消原因たる瑕疵は毫も原告の責に帰すべき事由に基くものではないから、被告の右取消裁決は違法である。よつて、右違法裁決の取消を求めるため本訴に及ぶと。

二、被告の答弁と主張

被告訴訟代理人は、「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする」との判決を求め、請求原因事実について、前記地区農地委員会が原告主張の如く本件の各土地につき買収売渡計画を立て、その主張の如く承認があり、原告に対する売渡処分があつたこと、然るに、右地区農地委員会は原告主張の頃、宮本繁の陳情で、本件の買収売渡計画を取消したことより、被告も亦まえの承認を取消す裁決をしたこと、右宮本繁は本件について異議申立等の不服申立をしなかつた事実はこれを認める。その他はこれを争う。原告が昭和二十一年二月朝鮮より引揚帰村し本件不動産名義人たる宮本繁の承諾を得て原告家を再興すると申立てたので、地区農地委員会は同情のあまり、法規をまげ、名実ともに山林又は原野であつた別紙第一、第三目録記載土地を畑と地目を変換した上、表面上は不在地主所有の小作地の如くし、又第二目録記載宅地については附帯施設として夫れ夫れこれを買収売渡計画を樹立した結果、被告も亦、これを承認したものであるが、調査したところによると、(1)第一目録記載の二十一字百十二番の一の土地は所有者の承諾がないのに、原告において杉の立木を伐採して開墾し不法に耕作しているものであり、同字百十一番の二、百十三番、百十四番の土地は買収売渡当時は大部分竹林及び山林であつて畑ではない。(2)第三目録の土地は現在も尚山林原野であることが判明し、これらはどの点からしても法律にいう小作地ではない。又(3)第二目録の宅地は農業用施設と認むべき何らの地上物件が存在しないことが判り、従つて、右宅地を自作農創設特別措置法第十五条に定める農業用附帯施設としてこれを買収することは許されず、その余の土地については同法の小作地として買収することはできないにかかわらず、右のようにこれを買収売渡計画をたて、そのまゝ承認したのは全く違法な処分であつたのであるが、右の違法を匡正する意味で、地区農地委員会はさきの買収売渡計画を取消し被告はその承認を取消すとの裁決をしたのである。而してすべて行政処分は一切取消すことができないものではなく、何らかの瑕疵あることを発見確知するに到れば、行政庁は自発的に「何時でも」これを取消すことができるのであつて、唯その場合、既得の権利利益を侵害しても尚これを正当化するだけの公益上の必要があるか、又はその取消を必要とする瑕疵がその行政処分により利益をうけた者の責に帰すべき事由による場合の外は取消については条理上の制限をうけるにすぎぬのである。本件では右違法は原告の責に帰すべき事由によること明かであり、且つ農地改革は連合車の占領目的達成のために推進された重要策の一つであることに思いを致せば、被告の本件取消裁決は適法と言うべきである、と陳述した。

三、被告主張に対する原告の答弁並びに主張

原告が被告主張の如く朝鮮より引揚帰郷したこと、前記地区農地委員会により第二目録記載土地が宅地として又第一、第三目録記載の土地はいずれも地目を畑と変換した上小作地として夫れ夫れ買収売渡計画が定められた事実はこれを認めるが、その他の主張事実はこれを認めない。原告は右のように引揚後第一、第二目録記載の土地を管理していた訴外堀田三松並に木村栄作より小作権を譲りうけ、名義上の所有者宮本繁の承諾と地区農地委員会の承認の下に耕作していたものである。第一目録記載の土地は大部分竹林又は山林であつたというが、然らずして、買収売渡当時以前から原告に開墾された農耕地であり、竹林の部分は筍をとるため肥培管理をしている農地である。又第二目録記載の土地は現在畑であるが、これには将来原告の耕作のための本拠たる住宅と農産物処理場を建設するところであるから農業用施設として買収することは違法ではない。仮りに違法としても、現況が畑であり、且つ不在地主所有の原告小作地であるから、右の買収は結局その違法は治癒される。而して、第三目録記載の土地は農耕適地であつて目下着々開墾中のものである、と。

四、証拠<省略>

三、理  由

一、七尾市東湊地区農地委員会が本件各土地について自作農創設特別措置法に定めるところにより、買収売渡計画を立て、被告はその中第一目録の土地については昭和二十二年十月二日、第二の土地については同年十二月二日、第三の土地については昭和二十三年二月二日それぞれ同法に基く承認を与え、それに伴つて原告は知事よりその売渡通知書の交付を受けたこと、ところが、その後昭和二十五年二月十日名義上の所有者たる宮木繁の陳情で前記地区農地委員会は右の買収計画を取消したこと、そこで被告も亦同年三月二十九日前の承認を取消すとの裁決をしたことは当事者双方に争がない。

二、(本件買収売渡計画並びにこれに対する前記承認の適否について)

(一)  被告は右三個の承認の違法なる理由として、その前行政処分たる右買収売渡計画はいずれも違法であると主張しているから考えてみるに、

(1)  第一目録記載の土地が右地区農地委員会により不在地主所有の小作地として買収されたことは当事者間に争ない事実である。(イ)さて被告のいう二十一字百十二番ノ一(一反四畝十八歩)は右買収当時小作地であつたかというに、成立に争のない甲第九号証に、証人木村栄作、同堀田三郎ヱ門、同木戸良一、同宮本芳清、同宮本繁(第一回)、原告本人(第一回)の各供述並に検証の結果を総合すると原告が朝鮮より引揚げ、昭和二十一年二月頃自分の郷里である七尾市万行に来て、久し振りで原告と北海道の宮本繁は実の兄弟として語り合つたとき、原告は以前からこの土地を管理耕作していた木村や堀田からこれを返えして貰つたし、ここを自分と息子の芳清の手で切り開き、ずつと百姓として生活をたてたいと相談したところ、繁も亦大いに結構だとしてこれに賛成し、原告はこれよりそこを開墾してその年から麦などをまいて耕作して来た事実が明らかである。然るに証人宮本繁は一部の供述で(第一、第二回)原告は所有者たる自分の承諾なく右の土地を開墾したと述べ、証人木村栄作も亦自分らは原告にではなく芳清にその耕作権を譲つたと言つているが、これを措信できない。かえつて前示証拠によれば、原告ら兄弟は初めは矢張り、世間の例にもれず、大変仲もよかつたのであり、又木村や堀田なども決して宮本家の主人として芳清のみを考え、原告の竹清をば忘れてはいなかつたのである。すなわち、土地を芳清にかえしたというのはその後になつてつけた言訳にすぎないのである。尤も証人宮本繁(第一、第二回)同木村栄作、同宮本芳清、原告本人(第一回)によれば、原告は先代宮本乾之助より廃嫡されており、その息子芳清が、右先代が死亡した昭和十八年にはその家督を相続した事実は明かであるが、これがため右土地の耕作権も亦芳清に譲られたと認めることはできない。果してそうだとすると、右土地をば原告が不法に開墾耕作したものであつて、法律に所謂小作地でないというのは当らない主張と言わねばならない。(ロ)次に、同字百十一番ノ二(二反四畝二十九歩)、百十三番(三畝一歩)、百十四番(三畝二十八歩)はどうかというに、前記(イ)挙示の証拠に、証人奥谷忠次郎の証言を総合すると、右土地はいずれも元山林として土地台帳に登載されていたけれども、元々からの山林であつたわけではなく、ここには原告の先代がその屋敷を構えていたのであり、従つてその屋敷の周辺に当る百十三番、百十四番の各一部、百十一番ノ二の北部はいわゆる籔になつていたけれども、昭和二十一年に原告がこの地に移つてからは逐次開墾され、本件の買収当時からすでに俗に「くじり作り」といつて木の根の間を利用して麦が植えられており、当時これは、常識的に言つて農地とみるか、山林とみるかといえば、矢張り一応は農地と見られる程度になつていたのであり、(勿論、木の根や竹があつて、農地と即座に言切るほどの立派なものではないが)又右の百十一番ノ二の北部で現在竹林になつている部分は、木村が管理していた頃から、そこに出来る筍はこれを収穫とされ、これに対し他の土地の年貢と併わせて年米にして二斗相当の賃料を支払つて来たのである。而して、原告がこれを管理する頃になつても、多少の施肥をしておつた事実が明かであり、以上の認定に反する証人木戸良一の一部の供述並に証人鷹尾善解の原告が第一目録の土地を耕作し始めたのは昭和二十三年頃であるとの供述は措信できなく、他に右認定を左右するほどの証拠はないのである。すなわち、これらの土地も亦これを小作地というに難くないのである。

(2)  そこで第二目録記載の宅地であるが、これが法律に所謂農業用の附帯施設として買収された事実は本件当事者間に争のないところであり、而してそれが右買収当時より現在にいたる迄畑地となつていることも原告の争わないところである。被告は右宅地上に何ら農業用の施設と認むべきものがないのにこれを買収するのは違法であるといつているから、考えてみるに、自作農創設特別措置法に基いて私人所有の宅地を買収するには、同法第十五条に定める厳格な要件を要するのであつて、これによれば同法による解放農地の売渡をうけて自作農となつた者が賃借権等による使用権を有する宅地にして始めてこれを買収の対象と為し得るのである。而してこのようにして対象となるべき宅地(帳簿上の宅地ではなく、現況による宅地)があり、且つこれについての買収申請が当該市町村農地委員会で相当と認められると茲に買収手続の第一段が完成するのであるが、本件では検証の結果によると、二十一字百十一番ノ二上で同字百十二番と百十二番ノ一に接した附近に急造の粗末な藁葺小屋がたてられているが、証人木戸良一、同堀田三郎ヱ門、同木村榮作の証言によればこれは右検証のあつた(昭和二十五年十一月十二日)数日前に建てられたことが明かであり、本件の買収計画当時は地上物件としては何一つなかつた耕作地(農地)であつたのである。原告本人(第一回)の述べるところによると、将来ここに家をたてて農業を営む予定である、と言つている。併し、農地であるか宅地であるかは主観的意思をも無視し得ない要素ではあるが、それのみによつて決すべきではなく、矢張り主として地上の有形物その他のもの、即ち土地の現況によらざるを得ない。然らば、右検証の結果に対比し、これを宅地と見ることはできない。そうだとすると、右の土地は或は原告の「小作地」として買収することは別として、宅地として買収することは全く違法と言わねばならない。而して、右の違法たる瑕疵は宅地の買収要件たる「買収さるべき宅地(現況による)が存在」しないという点において重要な一要件を欠くものとして行政処分の効果を発生させない程度の瑕疵というべきである。

原告はこれに対し、右土地は現況畑であるから不在地主所有の小作地として買収可能であり、本件の買収売渡計画は結局その効力を維持すべきであると主張するけれども、宅地買収と不在地主所有の小作地買収とでは、互にその法律要件を異にするのであつて、ことに両者の間には買収対価の基準は一つは「時価を参酌してこれを定める」とあり、他は、「賃貸価格に四十(田)」又は「四十八(畑)を乗じて得た額の範囲内においてこれを定め」られることに想到しても、所謂行為の瑕疵が治癒されるとか、無効行為の転換という法律論を援用するに由ないのである。然らば、原告の右主張は理由がないと謂わねばならない。

(3)  次に第三目録記載の土地はどうかと言うに、右土地は小作地として買収売渡計画が樹立されたことは当事者間に争のないところであるが、当裁判所の為した検証の結果によれば、当該三十字の各土地中、三十四番、三十五番、四十三番、五十一番はいずれも直径三、四寸の杉立木が多数生立している山林地であり、その余の土地は直径四、五寸位の杉その他が百数十本にわたつて伐採されたままの乱雑な山林地であることが明かであり、これら立木の伐採されたのは成立に争のない甲第六号証ノ二、証人宮本繁第一回の証言によれば、本件の買収売渡計画後の昭和二十四年の暮から翌二十五年にかけて為されたのであるから、証人松本精一郎、同木戸良一、同梅村正雄の各証言によつても明な如く右買収は原告のため同情し便宜を図つたと言うより以上に、全く実地を無視した計画であつたのである。従つて右のように一見して山林であることの明白な土地を農地として買収計画を樹立した処分は違法と言うべきであつて、而してこれ又農地の買収要件たる買収さるべき農地の不存在という点において行政処分の効果を発生させない程度の著しい瑕疵に相当するものと言えるのである。

以上によつて明かな如く、第一目録記載の土地に対する地区農地委員会の買収売渡計画には被告主張のような取消原因たるべき瑕疵はなかつたのであるが、その余の第二、第三目録記載の各土地については、その買収売渡計画に行政処分として到底その効力を認めることのできない程度の著しい瑕疵があつたのである。而して一般に行政処分は何らかの瑕疵がある場合に直ちに何時にてもこれを取消しうるものであるかどうかは、以下で判断するところであるが、これを要するに、第一目録記載の土地に対する前記買収売渡計画には被告主張の瑕疵がなかつたのであるから、これに対する被告の承認には何ら取消原因たるべき瑕疵はなかつたのであり、その余の第二、第三目録記載土地の各買収売渡計画に照応する被告承認には著しい瑕疵があつたと謂うべきである。

三、(異議申立等の不服申立期間経過後は一切行政処分の取消しはできないかについて)

右説示のように、第二、第三目録記載土地に対する買収等の処分並びにこれに対する被告の承認には著しい瑕疵があつたのであるから、進んで原告第二段の主張を考えてみると、本件において被買収処分者たる右土地の所有者から法律に定める何らの異議申立もなかつたことは被告の争わないところであるから、右買収売渡計画については異議申立等の不服申立権は法定の期間たる自作農創設特別措置法第七条所定の十日間の経過により、これを喪失したものと言うべく、而して、行政事件訴訟特例法第二条によれば、行政庁を被告とする訴訟は右の不服申立等(訴願)のできる場合は、これに対する裁決等を経た後でなければ、これを提起することができない、とされているから、この限度において本件では行政処分の相手方たる本件土地の所有者からその処分の効力を争う途がなくなつたことになり、右買収等の処分は形式的に一応確定したことになる。(尤も同条但書にあるような事情でいきなり行政訴訟を提起して尚当該処分の効力を争う余地のあることは自ら別である)然し、右のように処分が形式的に確定したからとてその後は一切その処分の取消変更はできないと即断はできないのであつて、このことは判決に対してさえ、再審事実を認めている点からしても明かである。尤もこれについても下記四、五に示すような制限はある。従つて、右のように、処分に所謂不可争力を生じたとの理由でその後は絶対に当該行政処分の取消変更を許されないとする原告の右主張は採用できないところである。

四、(出訴期間経過後においても尚行政庁は自らその処分を取消すことができるかについて)

よつて原告主張の第三点を考察する。前記一において認定したところによれば、被告が本件第二、第三目録記載土地の買収売渡計画について承認をしてより最短二年以上の時日を経過した後において本件の承認取消裁決をしていることが明かであるから、右は自作農創設特別措置法第四十七条ノ二に定める処分の日から二ケ月の出訴期間を徒過した後における原承認の取消処分であることは明白である。ところで、このように出訴期間が徒過された後は当事者より処分の効力を争う訴は許されなくなり、裁判所と雖もその処分に明白な瑕疵があるとの理由を以つてこれについての本案の判断はできなくなるのであるが、それではこれによつて処分に所謂実質的の確定力が生じ、処分庁といえども自らこれに反する処分を為し得ないかというに必ずしもそうでないのであつて、このことは不服申立の方法を失つたからとて違法な行政処分が適法となることはなく、又裁判所が当該処分の取消変更訴訟においてその実質的判断を下し得なくても、偶々他の訴訟において、その行政処分の当否が問題となれば、これについても矢張りその違法かどうかの判断を下しうることによつても明かである。ことに行政庁は何が最も公益上必要であるか又は何が最も公共の福祉に適合するかは行政の担当者としてよりよく知つているところであるから、その立場で公益上の必要等から瑕疵ある原処分を取消変更し、これに適合させることは必要のあるところと言わねばならない。唯その場合何らの制限なく、自由に原処分に反する処分を為し得ないという拘束をうけるに過ぎないのである。

原告は行政事件訴訟特例法による一ケ年の出訴期間経過後のことについて言つているが、これについても右の理は変わらない。然らば所謂出訴期間経過後は総て原処分に反する処分は許されないとする原告のこの点の主張も理由がないと言わねばならない。

五、さて原告主張の第四点について考察するに、

行政庁が自発的に前の処分を取消すことは必ずしも自由に出来るものではなく、それがたとい瑕疵ある行政処分と雖も最早出訴期間も経過し所謂形式的確定力を生じた以上は、被告のいうように、人民の既得の権利利益を侵害しても尚これを正当化する公益上の必要性のあること、又は行為の瑕疵がそれによつて利益を受ける者の責に帰すべき事由に基き且つこれを取消しても第三者との既成の法律関係を破壊しない場合の外は、何時でもこれを取消すことができるというわけではない。このことは前にもふれてきたところであるが、若しその瑕疵が著しく、殆んど行政処分としての効力を生じない程度のものである場合には、外観上は行政処分と目されるものが存在するため、何らかの効果を生ずるように思われるときは、何らの手段を要せず当然無効な場合と異り、行為の無効を宣言する意味においてこれを取消し、それによつて法律関係の明確を期することができるのである。無効な行為は別に取消をまつまでもなく、当然に無効なのであるが、行為が取消しうべきものか或は無効なものかは具体的には必ずしも明確なわけではなく、殊に無効ともいうべき著しい瑕疵といつてもその程度には種々ニユアンスがあるから、右でいうような意味での取消を必要とする場合が生じてくるのである。こういつたときに、処分の無効確認を求める訴訟には出訴期間などと言つた制限に拘束されないと同様に、処分庁は当該処分が尚争いうべき法定期間内にあるかどうか或は又前記のような人民の私権利益の考慮というような制限には一切拘束されず、原処分を取消(無効宣言)しうるのである。本件における地区農地委員会の定めた第二、第三目録記載の土地に対する買収売渡計画、従つてこれに対する被告の承認にはすでに述べたような著しい、重大且つ明白な瑕疵があつて、その買収売渡計画又は承認としての本来の効果を発生し得ない程度のものであつたから、原告の主張するような既得権を侵害するとかその瑕疵に因つて生じた原因はその者の責に帰すべきものであつたかどうかを考察する迄もなく、行政庁は行政法規の安定明確を期する必要から、これを「取消し」うるのである。いまかりに、右原処分は一応本来の効力を生じている、謂わば単に取消しうる程度にすぎない軽度の瑕疵があつただけであるとしても、農地でもない全くの山林(第三目録の土地)や又地上に建物としては何一つない全くの畑をそれぞれ畑として或は宅地だとして農地委員会が買収売渡計画を故意で(この点証人木戸良一、同梅村正雄の各証言で明かである)遂行するというが如きは、自作農創設特別措置法の精神である「自作農の確立」ということを全く逆用して、土地を安価に而も理由もなく分配するための手段としていることも考えられ、このようなことでは農地委員会の品位と権威を自ら失墜しているものであつて、それに対する国民の信頼をばん回する意味においても、右のような買収売渡計画を取消すことを要するのである。

六、結論

以上のようにして観てくると、三で説明したように、本件の土地の中、別紙第一目録記載の分については、その買収売渡計画並びにこれに対する被告の承認にはこれを取消すだけの被告主張の瑕疵がなかつたから、その後これをそれぞれ取消したのは違法であつたこととなる。それに反しその余の分については原告の主張する理由はどれも採用することができないから、結局これに対応するその後の被告の取消処分は別に違法ではなかつたのである。仍て、原告の本訴請求中、第一目録記載土地に関する部分の被告裁決の取消を求める点は理由があるからこれを容認し、その余の点は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用については民事訴訟法第九十二条に則り主文のように判決したわけである。

(裁判官 北野孝一 米光哲 向井哲次郎)

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